No.17

テキスト,メインストーリー

Come here
ディープ・ブルー 第3話


 施設全体が混乱に陥り、各地で怒号や助けを求める声が聞こえる。

神無木(かんなぎ)春日井(かすがい)班!無事か!?」

 そんな時、小清水(こしみず)桐ケ谷(きりがや)を呼ぶ声が聞こえた。見ればそこには神無木と由自(ゆうじ)が居た。桃李(とうり)が連れて来たようだ。

由自「悪いけど、篠田(しのだ)先生は今出張中。だから代わりに神無木と私が診るわ」
由自「あなたたちも出撃命令が出てる。準備ができたら外にいる堕喰(だくろ)たちと戦ってきて」

小清水「わ、わかりました」
桃李「まったく、なにがどうなってこんなことになってんのよ……」頭抱える
小清水「文句なんか言っても状況は変わりませんよ」
桃李「わかってるわよ」
桃李「ほら、行くわよ!なにボサっとしてるの!」
桐ケ谷「あ、……、すみません」

 桃李の呼びかけに、桐ケ谷ははっとした表情をする。しかし。

桐ケ谷「あの、すみません……。先に行っててもらえますか?」
桃李「はあ!?なに言ってるの、こんな非常事態に!」
桐ケ谷「わかっています、すぐに戻りますから」

 そう言って、普段腰の低い桐ケ谷では考えられないほどの聞き分けのなさで、そのままどこかへと走り去ってしまった。

小清水「……桐ケ谷さんが考えもなしにどっか行くわけないでしょ」
小清水「きっとなんか考えがあるんですよ、とにかく俺らは外に出ましょう」
桃李「……そうね、わかったわ」

 桃李もそれとなく納得したようで、小清水と二人で外にいる部隊への応戦に参加することになる。





 ……。

 …………。

 声。

 声が聞こえる。

 歌声?なにか、子守歌を聴いているような安心感。

 それは自分を呼んでいるような、そんな気がして。



由自「だから片付けはちゃんとしてってあれほど言ったのよ」
神無木「しているさ!オレの頭の中ではこれはここ、あれはそこってちゃんと整理ができて」
由自「ないから避難経路の地図を探すのに時間かかってるのよ!ああもう、バカと話すと疲れる」
神無木「誰がバカだ!!バカというほうがバカだ!!やーいべろべろば~~~~~」
由自「はっ倒すわよ」「……あれ?」
神無木「む!どうした!」
由自「……ベッドに寝てたはずの春日井は?」








 ふらふらと、覚束ない足取りで声がする方向へと向かう。
 まだ頭は痛む、耳鳴りは止まない。
 視界も良好とは言い難いが、それでも呼ばれているのであれば向かわねばならない。

春日井「……!」

 太陽の光が差し込む、外のようだ。

 外に出れば、そこはディープ・ブルーが所有する空き地だった。
 そこに、一人の少女がいた。

 少女は赤いツインテールを揺らし、くるくると踊っている。
 その容姿からも、まるで一人でサーカスを行っているピエロのように思えてくる。

 少女は春日井を見ると、ニタリと笑った。

レイター「アンタが春日井?」
レイター「あたしはレイター、アンタら人間が憎む存在、堕喰を崇拝する者さ!」
レイター「あたしが望むのはこの世の終焉!」「この腐りきった世界を、青い地球を!生き物の血で赤く染め上げる!」
レイター「それを叶えてくださるのが、他でもない堕喰を産み出したマリア() エル様だ!」

春日井「……なにを、言っている」
春日井「正直毛ほども理解ができないが、貴様らが人類に仇名す存在だということはハッキリとわかった」
春日井「ディープ・ブルーを襲撃するとは、よほどそちらも切羽詰まっている状況だと見受けるが」

レイター「わかってねえなァ!」
レイター「エル様に会ったんだろォ?ならわかるはずだろ!」
レイター「息子に会いたがっている、母親の気持ちが……!!」

春日井「……すまないが、理解できる言語で喋ってくれ」

レイター「だァから」

 レイターは春日井を指差す。

レイター「おまえの正体は」
小清水「黙れ!!!!!」

 その時、無数の弾丸がレイターを襲った。
 しかし、地面から堕喰の腕が生えてくるように伸ばされ、そのまま前へ出てきた小清水へと攻撃を振りかざす。

春日井「小清水さん!!」

 小清水はそれを交わし、刀へと変形したショットガンを振り下ろし、堕喰へとぶつける。
 衝撃音と共に、堕喰の身体は朽ちていった。その残骸を踏みつけ、小清水は武器をレイターに向けた。

レイター「きゃははははッ!!」
レイター「お笑いだなァ!そんなに春日井(こいつ)に正体を知られたくねェのかよ!」
小清水「春日井さん!!こいつに耳を貸すな!!」

レイター「うるっせェな」
レイター「おまえも、ジン・ブラッドレイも、ディープ・ブルーも」
レイター「いつまでも隠し通せると思うなよ」

小清水「黙れと言っている!!」
小清水「人類の未来のためだとか、そういう大層な大義なんざ今はどうでもいい!!」
小清水「俺が、――俺自身が!!」
小清水「この人の正義心を、濁したくないだけだ……!!!!!」

春日井「……小清水さん」

レイター「本当に正しい正義を持ってるなら、真実を知った程度では濁らんだろうよ」
レイター「春日井京介」
レイター「てめェの正体は、堕喰を産んだ母である、エル様の息子だ」
レイター「つまり、てめェも堕喰とおんなじってワケだよ」
レイター「おまえは産まれて間もない頃、ディープ・ブルーという名前がつく前から堕喰を調査していたこの機関に保護され」「そうして今日まで、お偉いさんたち絡みで隠されてたってワケだ」

春日井「……」
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レイター「てめェが時折数時間意識を失うのも、殉職する仲の良い同僚の死も」
レイター「全部、てめェが堕喰であり、人を喰らう性質のせいだという説明で片付く」

レイター「どうだ?信頼する上司や仲間から、おまえが人類に憎まれる立場である存在だとわかった気持ちは?」
レイター「あたしの役目は、おまえをエル様の元へ連れ戻すこと」
レイター「そしておまえは、エル様と共に地球を赤く染め上げるために、全てを喰らい尽くすんだよ」

レイター「さァ!!!!人類を憎め、未来を閉ざせ!!!!赤い海に溺れろ、人類共!!!!!!」

 レイターがそう叫ぶと、背後から巨大な腕が地面から這い出てくる。地震のように揺れるせいで、立っていることができない。その腕は続いて2本目、3本目――そして、8本目も生えてきて、地面に這いつくばる。
 顔を覗かせた堕喰は雄叫びを上げる。耳障りの悪い不協和音のそれは、立ちはだかるだけで戦意を喪失させるに十分であった。

レイター「蹂躙しろ、堕喰!!!!」

小清水「クソッ……!!」
春日井「小清水さん、俺の武器は!!」
小清水「持ってきてませんよ!!てか逆になんであんたが持ってきてないんです!?」
春日井「せ、戦闘になるとは聞いてなかったんですよ!!」
小清水「そういえば警報鳴る前に気絶してたなあ あんたって人は!!」

 小清水が武器を構える。しかし、一人でどうにかなるような相手ではないだろう。
 冷や汗なのかよくわからない汗がこめかみを伝っていく。どうにもこうにも、自分が一人で戦っている間に、春日井に武器を持ってこさせるしかない。
 それに、これほど巨大であれば、ディープ・ブルー側から助けが来るかもしれない――。

 やるしかない――。そう引き金に指を掛けた瞬間だった。

???「照準、目標の頭部に設置」「風向き良好」「出力最大値」「射撃します」

 その場に似合わないほどの落ち着いた声。

 一瞬、風が止み、物音さえもしなくなった。そう、気がしただけかもしれない。

 流れ星のような青い一筋の光が、堕喰の頭部を貫いた。

レイター「なっ……!?」

桐ケ谷「目標、被弾しています!!」
???「おお、腕は鈍っていなかったようで」
桐ケ谷「救援、感謝します」
???「いえいえ、こちらこそ」

 見れば、後ろから桐ケ谷と、見知らぬ子供のような風貌をした少年が立っていた。少年だろうか、ジンと雰囲気が似ており、ぱっと見で性別が判別できなかった。

レイター「て、てめェ!!なにモンだ!?」

???「おや、失礼」
モルガ「私はモルガナイト、お気軽にモルガ、などと呼んでください」
モルガ「ディープ・ブルーの管理人、ジン・ブラッドレイとは友人関係でしてね」「ディープ・ブルーに危機があったと耳に挟みまして。救援に来た次第です」

レイター「ッ……!!」

 頼りにしていた巨大堕喰が一撃で倒されたことが予想外だったのだろう。レイターは新たに堕喰を呼び寄せ、それの背中に乗り逃げ帰っていく。





春日井「……あの」
小清水「……はい」
春日井「……知ってた、んですか」「あなたも」
小清水「……」盛大なため息

小清水「知ったのは、不本意でしたけどね」
小清水「管理人とは協力関係にありました。……あなたはディープ・ブルーにおける最大戦力だ、人類の未来のために、あなたから真実を隠してほしいと」

春日井「……」
小清水「……怒って、ますよ、ねえ……」
春日井「いえ……」「怒っている、というより……」
春日井「多大なる迷惑をかけたはずです、皆さんにも、あなたにも」「知らなかったとはいえ、俺は……大事な友人を、この手で殺している」「俺は、俺自身を許すことはできません」「しかし、だからといって人類を憎む理には敵わない」

春日井「むしろ、人類の脅威になりかねない俺を、保護してくださったのがディープ・ブルーです」
春日井「なら、俺は恩を返さなければならない」

小清水「……」
小清水「そう、か」
小清水「強いな、あんた」「……だから、俺はあんたを守りたかった」

小清水「正義心を信じるなんて言って、真にあんたを信じることができていなかったのかもしれないな」
小清水「あんたが、これくらいで折れるわけがないのに」

ジン「本当ですよ」
小清水「ウワッ!!か、か、管理人!!驚かせないでくださいって!!」
ジン「ふふ、すみません」

ジン「私からもお詫びをさせてください、春日井さん」
ジン「……長い間、我々ディープ・ブルーはあなたの真実を隠蔽していた」
ジン「長い間積み上げた信頼関係を、台無しにするような真似をしていた」
ジン「申し訳ありません」

春日井「……」後ろ頭を掻く
春日井「……頭を上げてください、管理人」
春日井「俺は……、まだ、なにも諦めてなんかいませんよ」

モルガ「そうですよ、ジン」
モルガ「管理人であれば、彼を信じてあげてください」
モルガ「我々は、まだやるべきことがあります」

ジン「……そうですね、モルガ」

ジン「周囲の堕喰も、首謀者が逃走したことにより、同じように逃走を開始しました」
ジン「怪我人も多く出ています、しばらくは施設全体の療養が必要でしょう」
ジン「春日井さんも、まだ体調が万全とは言い難いはずです」
ジン「一度戻って、身体を休めること。それが、今全部隊に下す命令です」

小清水「……りょーかいです」
春日井「了解しました」

 そうして、彼らは施設へと戻っていく。
 その間際、桐ケ谷は振り返る。

桐ケ谷「……イオさん」
桐ケ谷「……モルガさんが来ていたこと、どうして知っていたんですか?」

桐ケ谷「……」

桐ケ谷「……いえ」
桐ケ谷「ありがとうございました」

小清水「桐ケ谷さーん、帰りますよー」
桐ケ谷「あ。は、はい……」

 夕暮れの紫が空を染めていく。
 太陽が沈む向こう側は、血のように赤い光が周囲を照らしていたのだった。

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