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A mountain of corpses

ディープ・ブルー 最終話


 堕喰(だくろ)の死骸の山が積み重なっている。
 一筋の光が頭上から差し込み、小さな光だけが周囲を照らしている。

 一匹の堕喰が現れる。それは涎を滴らせて、標的を睨みつけている。
 その向こう側にいるのは、影狗(かげいぬ)だった。荒く息を切らせて、春日井らと別れた時よりもどこもかしこも身体中をボロボロにさせていた。
 影狗の背後には無数の堕喰が転がっている。そして目の前にいる堕喰も、雄叫びを上げ影狗に立ち向かい――それは、影狗の背から生えている触手によって貫かれた。

 堕喰は暴れまわり、それでも影狗を喰らおうとする。
 死骸の地を走り、攻撃を避けて新たな一撃を堕喰に加える。堕喰の尻尾が影狗の鳩尾に強打した。がくん、と視界が歪んだが、それでも決して折れることはなく、最後の一撃を堕喰に与えた。

 鳴き声を上げて絶命する堕喰に近づき、その肉に噛みついた。

 不味い。

 最低の舌触り、食感、味。

 飢えた野良犬のように堕喰の死骸を喰らっている。

レイター「そんなことしたって無駄だって、なんで気づかねェんだよ」

 赤い髪の少女が現れ、影狗を嘲笑する。

レイター「エル様はおまえなんざ目に入ってすらねェよ!」「どんだけ仲間の死骸喰らったって、おまえはおまえのままだよ」
レイター「無数にいる堕喰となんら変わらない、ただの舞台装置なのさ――ひィッ!?」

 影狗の触手が、レイターのすぐ横の地面を叩きつけた。

影狗「目障りだ、消えろ」

 そう言われたレイターは、ぎ、と影狗を睨みつけ、逃げるようにして去って行く。

影狗「……うるせえ……どいつもこいつも……」





 雨が降っている。

 ふらふらと宛てもなく彷徨っている。

 あれほど死骸を喰ったのに、乾きが埋まらない。
 大きな空洞が自分の中にある気がしている。

???「影狗か?」

 自分を名を呼ばれ、焦りから振り返る。
 そこには敵意もなにもない、何度か世話になったことがあるディープ・ブルー医療班の人間が、傘を差して立っていた。

 名前はなんだったか――、篠田(しのだ) 灰世(はいせ)という男だったと思う。
 彼は心配そうに影狗に駆け寄る。

篠田「どうしたんだ、傘も差さないで」
篠田「それにあちこちに怪我をしている……、なにがあった?」

影狗「……ここ、ディープ・ブルーの敷地内じゃないだろ」
影狗「なんでこんなところに……」

篠田「ああ、実は出張でな。他の施設に足を運んでいたんだ」

 宛てもなく適当に彷徨っていたせいで気づかなかったが、他の施設の敷地内まで来てしまっていたようだ。

篠田「すぐ近くに借りている宿があるんだ、そこで治療しよう」
影狗「い、いいって。あんたには関係ねえ……」
篠田「同僚を放って置けるほど薄情ではないんだ。用事があるのならまた明日にしよう、今日は介抱させてくれ」

 篠田は影狗がディープ・ブルーを辞めたことを知らないのだろう。彼は笑顔を浮かべて、「行こう」と言って影狗の手を引く。
 むず痒い。なんだ、これは。





篠田「よし、これでいいだろう」

 治療を終えた篠田は、そう言って医療器具を直す。

篠田「おまえは無茶をすることが多いからな、仕方ないとは思っているよ」
影狗「……」
篠田「それで、なんでここまで来ていたんだ?任務の最中で?」
影狗「……そんな、感じだな」嘘~~~~
篠田「そうか」「腹は減ってるか?簡単なものにはなってしまうが、スープくらいなら食えそうだろうか」
影狗「……まあ、それくらいなら」
篠田「わかった、少し待っていてくれ」

 むず痒い。

 何故だか、雨で冷えていたはずの体温が熱くなった気がした。





 翌日、雨はすっかり上がっていて、雲から差し込む朝日が眩しかった。

 隣のベッドでは、篠田が穏やかに眠っている。
 彼とは住んでいる場所が違う、育ってきた環境も違う、生きている場所が違う。
 こんなに優しくされる筋合いはない。

 脳裏に春日井が浮かんだ。彼はその優しさを、常に享受し続けてきたのだろう。
 同じ母親から生まれた兄弟が、ここまで違うものなのかと。

 恨めしい、羨ましい。

影狗「(悪いな)」
影狗「(あんたと居たら、いつあんたを喰ってしまうかわからない)」

 篠田を喰ったところで、それから守ってくれる人など、自分には居ないのだ。

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#ディープ・ブルー

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