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少女のわがまま

男×女/短編/全年齢


 小さな手のひらから伸びる指は相応に短く、指先から目的の本に届くには遠目からでもかなりの距離があった。
 木材でできた足場を使ってなお届いておらず、そんな彼女を柊木(ひいらぎ) 一真(かずま)は見ていた。
 しばらく奮闘を続けていた彼女はぐぐっとさらに身体を伸ばして、脱力する。降参したのだろう。一真はしばらく助けるかどうか悩んでから、彼女に声をかける。

撫子(なでしこ)さん」

 撫子(なでしこ) 無題(むだい)。撫子と呼ばれた彼女は一真のほうを見上げる。宝石なような輝きを持った目が一真を射抜く。

「あの」躊躇ってから声を絞り出す。「俺が取りましょうか」
「いいの?」
「はい」

 一真は持ち前の180cmの高身長で軽く本を取り出す。それを撫子に手渡すと、撫子は柔らかな微笑みで「ありがとう」と言った。

「でも、戻してもらうときにまた助けてもらわなきゃ」
「それは……全然構いませんが」
「一緒にいてくれるの?」
「いていいんですか?」
「うーん」彼女はしばし思考する様子を見せて「じゃあ、いなきゃだめ」
「いなきゃだめですか」
「うん」

 撫子は楽しそうに笑う。一真の表情が図らずも困ったように歪む。彼女のわがままに振り回されるようでいて、自分はそれを享受している。いや、振り回してくれているのだと思っている。
 少女のわがまま、どうかそのわがままを受け止めるのが自分だけであってほしい。

「柊木くん、本読まないの?」
「……読みます」

 適当にその場にあった分厚い本を手に取る。しかし手に取ったのは良いものの、意識は彼女に向けられたままで、頭には入ってこないのに。
 彼女の小さな手が一真の服の裾を掴み、引っ張った。

一次創作

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