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No.63

一次創作,朝食の皿に四角い卵

宍戸探偵の事件簿 2
 しばらくして、事務所備え付けののインターホンが鳴る。出れば黒髪に青いメッシュが印象的な女性が立っており、宍戸を見て軽く頭を下げる。
 ふとその女性に既視感を覚えたが、まあいいかと思い直し「どうぞ」と言って、中へ入れる。

「……今井?」

 耳を澄まさなければ聞こえないほどの音量で、黒箱が呟いた。そこで初めて宍戸は、彼女が黒箱の元同僚である今井千春であることに気づく。
 多くの人から忘れ去られた今、千春は特に黒箱に関心を向けるでもなく、何事もないように施されるがままソファに座った。
 それを見た黒箱は、はっとしたようにお茶を淹れにキッチンへ向かう。彼が感傷に浸ることもあるのだろうか、珍しいこともあるものだ。

 それにしても、今でも千春は警察内部の人間として働いているはずだ。そんな彼女が警察ではなく探偵に依頼など、なにがあったのだろう。

「初めまして、先程お電話させていただいた今井千春です。内容の通り護衛の依頼なのですが……。実は、その、ここより少し離れた離島に行くことになるのですが、それは大丈夫でしょうか……?」
「離島、ですか?」
「私が現在勤めている仕事より以前は、そこの島にあるお屋敷で使用人として働いていたんです。年に1回は里帰り……みたいな感じで、お屋敷に顔を出しているんですが……。なんだか、近頃お屋敷に怪しい噂が出回っているみたいで」

 千春が言うには、急に人が豹変し襲い掛かって来る事象が相次いでいるらしい。
 そういう不安面から、宍戸らに護衛を頼みたいとのことだ。

「なるほど、わかりました。わたくし共でよければお力になりましょう」
「まあ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 そうして、晴れて正式に仕事を引き受けることになった。



*




「おめでとうございます!一等賞です!」

 カランコロン。と大きな鈴の音が鳴り響く。
 ぽかん、と口を開ける犬神を横目で見た津西は、一等賞はなんだったかと福引に書かれている文字を見た。

「スピカ・ラピス旅行券……?」
「都会から離れて、海の綺麗な離島で息抜きするのも大事ですよ~!」

 あれよあれよと旅行券を2枚渡され、犬神と津西はまじまじと旅行券を見つめる。
 なんと、有効期限と休暇の日が被っているのだ。……これは行かねば損というものではないだろうか。

「……どうします?」
「どうせ冴木にでもバレたら、せっかくの絶好のデート機会を台無しにするなって怒られるんだ。行ってやろうじゃないか」
「……そうですね」





*





 といったところで、船に乗る直前――。
 そんなこんなで、全員が船乗り場に集合していたのであった。
 もちろん、犬神が来るなんて知らなかった宍戸と黒箱は「なんでおまえが」という顔をしていたし、犬神も「もう帰ろうかな」と思い始めていた。

「進ー」
「零くん、すごい偶然だな」

 しかしそんな男たちの考えは露知らず、津西らはわいわいと再会を喜んでいる。なんなら、同じ行先と知れば嬉しそうに喜び、せっかくなら仕事を手伝おうじゃないかと言い出す始末。

「し、しかし人手が増えたら邪魔でしょう、お屋敷の方々も困るんじゃないですか」

 犬神が一縷の望みを賭け千春にそう言うが、千春は明るい笑顔で「いえいえ!」と答える。

「大きなお屋敷ですし、少しくらい増えても困りませんし……。警察の方が手伝ってくれるのであれば心強いです!」

 望みはあっけなく打ち砕かれたのであった。

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