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No.62

一次創作,朝食の皿に四角い卵

宍戸探偵の事件簿
 警視庁、電脳県警のヒーロー課を巻き込んで、そして、全てが無かったことへと化した事件――。
 以降、宍戸大牙と黒箱刻は元居た地位からその名を消され、ごくありふれた一般人として日常を過ごすことになった。
 そんな二人は、事情を全て把握している犬神が住まうマンションに住むことになったのだが……。なんの因果か、あるいは縁か。全員が隣人同士という構図になってしまった。
 結果として犬神は頭を抱えることになったのだが、津西と光過が親戚同士で幼い頃から付き合いがあったことや、古川との意気投合から、それなりに仲良くやれている……はずだ。



 さて、そんな宍戸と黒箱だが、現在は私立探偵として事務所を構えている。
 元々共犯関係になった二人だ。仕事をするには互いの勝手を知っていて都合が良いだろう。つまりは「どうせ暇だろうから付き合え」といった感じだ。
 事務所には光過と古川もおり、随分と賑やかな部屋の様子がうかがえる。宍戸と黒箱は仕様もないことで口喧嘩を繰り返しているが、光過と古川は至って穏やかに遊んだり会話をしている。
 金には余裕もあるからと、儲かるかもわからない探偵業を始めた宍戸だが、これが意外にも繁盛している。元々人の懐に入り込むのが得意で、社会的地位が高かった宍戸は、難なく人脈を作り出し、元前の外面の良さで「困ったら宍戸探偵事務所に!」と言わせるほどの評判を得た。更に元刑事の黒箱も捜査や聞き込みに長けており、互いに体術も優れていることから、浮気調査や迷い猫捜索以外にも、護衛の仕事なんかも舞い込んでくる。その護衛の仕事も、どこぞのお嬢様の~だったりするため、報酬金が弾むのだ。






 そんなある日。
 時刻は正午をとっくに過ぎた昼頃。今日はまだ依頼は来ておらず、宍戸はニュース番組を垂れ流しながら、机に広げた新聞を流し読みしていた。ソファには光過と古川が座り、なにやら本を読んでいるらしい。少し古川に構いたくなった宍戸は新聞から顔を上げて二人に声をかける。

「随分熱心に読んでいるようですが、なにを見ているんですか?」

 宍戸の声に古川が振り返り、その穏やかさからかけ離れた言葉を口にする。

「爆弾解体のマニュアル」
「爆弾解体のマニュアル?」

 ――爆弾解体のマニュアル……?

「そ、それは……む、難しそうなものを読んでいますね?」
「いつ爆弾解体がひつようになるか、わからないからな」
「そ、それは確かに……?」

 二人は楽しそうに爆弾解体のマニュアルを読んでいる。まあ、楽しいならいっか。と思い、新聞に目を戻す。そして横にあるコーヒーに手を伸ばすが、手に取って中身を見れば空っぽだ。

「おい黒箱、コーヒー淹れてくれ」

 キッチンでなにやら料理をしているらしい黒箱に声をかける。しかし、返ってきたのは苛立ちを隠そうともしないドスの効いた声だった。

「おまえが淹れろ」
「淹れるわけねえだろ、助手の仕事だ」
「よそはよそ、うちはうち」
「うちでも助手が淹れる」
「泥水でも啜ってろ」

 そしてキッチンから出て来た黒箱は、コーヒーなんか当然淹れてくれるわけもなく、両手にパンケーキの乗った皿を持って光過と古川の前に置く。
 そのパンケーキの出来はプロのパティシエさながらであり、チェリーやアイスクリームも乗っている。実に美味しそうだが、当然宍戸の分はない。
 ……黒箱も、自分の分は作ってはいないのだが。
 二人に「どうぞ」と微笑んで言うと、二人は目を輝かせて嬉しそうにお礼を言う。宍戸も料理は得意だが、お菓子作りは未経験だ。二人は美味しそうにパンケーキを頬張っている。なんとも幸せな光景だ。

 その時、宍戸の元に電話がかかってくる。
 すかさず受話器を取り、「はい、こちら宍戸探偵事務所です」と応答する。受話器からは、穏やかな女性の声が聞こえてきた。

『も、もしもし、こんにちは。今井と申します』
「どうも。なにかご用で?」
『実は、依頼したい用件がございまして……。護衛の仕事も受け付けているとホームページに書かれていたのですが、よろしいでしょうか……?』
「ええ、もちろん」

 女性は「よかった!ありがとうございます」と言って、詳細を説明するために事務所へ向かう時間帯の約束を取り付ける。

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