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Re;dREgina 第6話

#Re;dREgina

※注意※
当作品に含まれる成分表。
暴力/流血/倫理観の欠如/人外化/年齢が非常に若い刑事などのファンタジー設定

参考
鏡の国のアリス ルイス・キャロル
赤の女王仮説 Wikipedia
四季(ヴィヴァルディ) Wikipedia


本編 第5話 前回>>






夏生くん、これだけは憶えててほしい

誰がなんと言おうと、きみは獣地夏生というひとりの人間だ









最上階まで辿り着き、目の前にはカードキーを差し込まなければ開かない、白い扉がある。
この中に元凶であると考えられる、ディルクロの社長がいる。


syuichi 【鈴鹿柊一】
「……開けるぞ」


柊一がそう言うと、朔良と夏生は黙って頷いた。

御前から受け取ったカードキーを差し込めば、静かな電子音と共にランプが緑に光る。


sakura 【明星朔良】
「さすが」


御前の技術力に感服しながらも、この先への不安を疼かせる。
柊一はドアノブを握りしめ、意を決して開けた。









es 【???】
「赤の女王仮説をご存知だろうか」

「他種族との競争の中、生き残るためには常に進化していなければならないという仮説だ」

「1973年、リー・ヴァン・ヴェーレンによって提唱された」



部屋に置かれた蓄音機から流れ出すのは、アントニオ・ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲、「四季」より冬。
第1楽章では、寒波の中身震いを起こしているような表現がなされている。

部屋の奥には3人の人間がいた。

一人は赤い髪をし、不機嫌そうに顔を歪ませている女性。
もう一人は、地面に置かれた積み木に夢中になっている。夏生らのことなど眼中にないようだ。

もう一人は、椅子に座って目を細めながらこちらを見ている。
彼は薄ら笑みを浮かべながら言った。


es 【???】
「我々シーカーは、元々人間によって生み出された存在」
「ある街はずれの研究所で、非人道的に行われた研究」


es 【???】
「生み出されたシーカーは自我を宿し」
「生き残るために、支配される側ではなく支配する側へと意識を成長させた」

「それが、私たちが起こした人間への逆襲」


sakura 【明星朔良】
「人間への逆襲……」


tasikku 【???】
「アタシたちは、アタシたちのやり方で種を存続させたい」

「アンタたちは、アンタたちの世界を守りたい」

「なら、和解できる道はねえってことだ」


natsuo 【獣地夏生】
「でも……!」
「俺は、人間の世界を守りたいよ」
「自我のあるシーカーが話し合えば、まだ和解の道だってあるかも……」


tasikku 【???】
「甘っちょろいこと言ってんじゃねえよ」
「その姿、おまえはレギナの血を濃く継いでるはずなんだがな」


natsuo 【獣地夏生】
「レギナ……?」


tasikku 【???】
「最初に産まれたシーカー」
「実験体の番号になぞらえて言うなら……」
「seeker-001」


その時、爆風が窓を叩いていることを柊一は察知する。
ガタガタと音を立てて揺れる窓、ますます風は強くなっていく。


syuichi 【鈴鹿柊一】
「夏生、朔良!!伏せろ!!」


そう言い終わるや否や、全貌を見渡せるほどの窓は音を立てて砕け散った。
ビルから這い上がって来たのは、巨大な図体を構え、ギョロリと目玉を覗かせるシーカーであった。

まるで皮膚の中を剥き出しにしたような赤黒い肌、牙は人間のそれより獣に近い歯並びをし、頭だけが一際大きくなっている。
一つ目のように覗かせた巨大な目玉は、確かに夏生らを捉えている。

これがシーカーの本性、本来の姿。



tasikku 【???】
「ホベッツ、やるぞ」

赤髪の女性は、すっかり積み木が崩された様子のもう一人に声をかける。


hobexxt 【ホベッツ】
「タシック!積み木が~!」

tasikku 【タシック】
「また買い直せばいいだろ」


tasikku 【タシック】
「エス様とレギナ様の悲願の達成のために」
「アタシらは貴方達の手となり足になる」


そう言ったタシックとホベッツは、シーカーの前に立つ。
シーカーは躊躇うことなく二人を飲み込み、ただでさえ異形のものだったそれは、背中からなにかが生成されるような、生み出されるような骨の砕かれる音と共に、悪魔のような翼が広がる。


sakura 【明星朔良】
「えーっと……」


sakura 【明星朔良】
「……どうします?」


syuichi 【鈴鹿柊一】
「どうするもなにも……」

絶望的な状況下に、思わず言葉を失う。


natsuo 【獣地夏生】
「柊一、朔良」

sakura 【明星朔良】
「な、なんです、か」


natsuo 【獣地夏生】
「俺があんな感じの姿になっても、」
「嫌いにならないでくれる?」


sakura 【明星朔良】
「は!?」


syuichi 【鈴鹿柊一】
「……それは」
「おまえもあの姿になることで対抗するってことか?」

natsuo 【獣地夏生】
「そう」
「さっき、コアの一部を拾ったんだ」
「これを食えば、シーカーの力を増幅できると思う」

「でも……」


sakura 【明星朔良】
「……ハァ」
「安心してくださいよ」


sakura 【明星朔良】
「そりゃ、あの姿になったら正直ちょっと引くかもしれませんけど」
「中身は夏生さんでしょ?」
「夏生さんなら大丈夫」
「友達ですからね!」


syuichi 【鈴鹿柊一】
「おまえが信じるほうへ駆けろ」
「本当の進化ってヤツを見せてやれ!!」


夏生は頷く。
赤く煌めく、宝石のようなコアを口にくわえ、かみ砕く。





地面を駆け抜け、屋上から身を投げ出した。
落下する途中――夏生の心臓から閃光が発され、それは周囲を包み込む。


長い四肢と胴体、白く塗りつぶされている細胞たち。
長い胴体を包み込むほどの白い翼には、赤い目玉が何個も相手のシーカーを射抜いている。

本来の天使というものは、人間の想像を絶するほどの異形をしているらしい。

どこかで聞いたことのあるような話だが、存在するとしたら、目の前にいるものだろう。


やがて二体のシーカーはぶつかりあい、奇声を上げながら空中で戦い合う。





mahuyu 【大槻真冬】
『聞こえるか、柊一、朔良!』


sakura 【明星朔良】
「うおおお!!びっくりしたァ!!」
「は、はい!!聞こえますよ!!」


mizuki 【敷織瑞稀】
『おれもおるで!』

syuichi 【鈴鹿柊一】
「瑞稀!」


mahuyu 【大槻真冬】
『今、俺が開発したスーパーウルトラミラクルボンバーレーザーガン』
『つまりあのシーカーを倒すためのレーザーガンの調整をしてる』

mahuyu 【大槻真冬】
『さすがに俺だけじゃ難航するからよ』
『柑橘の姉ちゃんに付き合ってもらってるよ』


misaki 【天音御前】
『あとちょっとで細かい修正が完了する』

『……』

『よし……!これでどうかな』



chiaki 【大槻千秋】
『さすがですね……!』

syuichi 【鈴鹿柊一】
「頼れる味方がいてよかったよ」
「いいか、撃つのはあの赤黒いほうのシーカーだ」
「白いほうは夏生だ、間違っても撃つなよ」


mahuyu 【大槻真冬】
「バカ」
「撃つのはおまえだよ」


後ろを振り向けば、息を切らしながら壁に手をついている真冬がいた。
手にはケースが握られており、真冬はそれを柊一に向けて投げる。

syuichi 【鈴鹿柊一】
「っと……!」

mahuyu 【大槻真冬】
「優れた銃の使い手じゃないのに、片方のシーカー狙って撃てるわけねーだろ」
「頼むぜ柊一」
「性能の限界でな、一発撃ったら壊れるぜ」


sakura 【明星朔良】
「んなぁ!?」

mahuyu 【大槻真冬】
「十分だろ」

syuichi 【鈴鹿柊一】
「……ああ」

「一発あれば十分だ」









目の前のシーカーにぶつかればぶつかるほど、自分の、人間としての感覚が失われていくのを感じた。

どうしようもなく、自分は化け物で。

人間ではない、シーカーなのだと。


目の前のものを傷つけることで、自分の中のなにかが満たされていくのを感じた。
ああ、シーカーとはこうも加害性に満ちた存在だったのか。と、今になって思い知ることになった。


最初にシーカーを造りだした人間たちは、なにを考えてこんなものを生み出したのだろうか。


natsuo 【獣地夏生】
「(……俺は)」
「(俺は、それでも)」
「(今まで、みんながくれたものを無下にしたくない)」


世間にとって、自分の存在はいらないものかもしれない。



syuichi 【鈴鹿柊一】
「夏生!!!!!!!」


ビルのほうを見れば、柊一が銃を構えて夏生を見ていた。
夏生は心で頷き、目の前のシーカーに飛び掛かる。

必然的に目玉をビルの屋上へと向けてしまったシーカーは、遠くで笑う柊一を、確かに見た。


syuichi 【鈴鹿柊一】
「落ちろ……!!」













ディルクロのそばで、赤黒い天使が落ちていった。


それは紙が剥がれていくみたいにボロボロと剥がれ落ち、やがて塵となって消えていく。
その中から現れたのは、夏生と瓜二つの人型だった。


彼は夏生と同じ顔をしながら、同じ目はしていなかった。
どこまでも虚ろで、なにも映さない目。

夏生はその姿を見ながら、彼が本当に望んでいたのは、人間を支配することだったのだろうか?と逡巡する。






――その頃、ビルの屋上で聞こえたのは一発の銃声。
それは柊一に被弾することはなかったが、持っていた銃を落とすよう掠めたものになった。

sakura 【明星朔良】
「柊一さん!!」

朔良が柊一に駆け寄る。
撃った人物は、あの時シーカーに食われていなかった一人……エスと呼ばれる、ディルクロの社長だった。


es 【エス】
「長かった実験も、失敗という結果に終わってしまったか」

syuichi 【鈴鹿柊一】
「なに……?」


sakura 【明星朔良】
「まさか」


sakura 【明星朔良】
「あんた、シーカーじゃないんですか」



es 【エス】
「そうだよ、私はシーカーではない」
「ただの人間、シーカーを開発していた研究員のひとりだ」

「レギナは私の成果の第一番として、よく出来たシーカーだった」
「でもまさか、seekar-002もあそこまでよく出来たものだったとは」


sakura 【明星朔良】
「……夏生さんは、もうあんたらに縛られる立場じゃない」


es 【エス】
「そうかな」
「化け物はどこまで行っても化け物だ」
「人間と違うと自覚してしまった以上」
「もう元の状態に戻れないと思うよ」



無数の足音が聞こえる。
部屋には瑞稀、千秋、御前。そしてついてくるようにして、警官たちが周囲を取り囲んだ。


mizuki 【敷織瑞稀】
「武器を捨てろ!違法研究、及び大量殺人の容疑者として逮捕する!」

エスは表情もなくそれを見、諦めたように武器を捨てる。
ほどなくして夏生も柊一たちと合流し、事件は一旦の収束を迎えることとなった。





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